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【日南学園・聖光学院】力投する聖光学院の先発・歳内=阪神甲子園球場で2011年8月6日、和田大典撮影 |
夏の甲子園大会初日の6日、延長戦で自らサヨナラ打を放って日南学園(宮崎)に競り勝った聖光学院(福島)のエース・歳内(さいうち)宏明投手(3年)。120人以上の部員による投票で主将に選ばれた翌日、東日本大震災が起きたが、部員を一人もやめさせることなく、チームをまとめ上げた。阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)に近い兵庫県尼崎市出身だが、福島の復興に込める思いは人一倍だ。
阪神大震災の時は1歳半だった。母美佐子さん(43)は眠っている我が子を揺れから守ろうととっさに体の上に覆いかぶさったと述懐する。地元の名門クラブチーム「宝塚ボーイズ」で中学時代から投手として活躍、知人の紹介で聖光学院を見学し、充実した練習内容に入部を決意した。
東日本大震災では、福島第1原発事故による放射線を考慮し、約2週間、練習が中止になった。歳内投手ら部員は物資の積み込みなどのボランティア活動に励んだ。
震災直後、心配する両親のためいったんは実家の尼崎に帰ったが、「被災した仲間がいるのに離れていいのか」と、後ろ髪を引かれる思いだった。結局、帰省して6日後、「エースの自分が聖光学院にいなくてどうする」と考え、福島に舞い戻った。
「全国制覇という目標があれば一丸となれる」との信念で、ミーティングでは「震災を背負って戦おう」と何度も訴えた。福島大会を前に、主将は交代したが、同じ3年の大瀬昴選手は「震災を経験し、福島を背負う思いが人一倍強くなった」と評価する。
美佐子さんは「本当は被災地に帰ってほしくなかった」と親としての本音を明かしつつも、「チームメートを気遣えるようになったのは成長」と喜ぶ。
「勝ってこそ福島のためになる」。歳内投手は初戦突破を果たし、夢の全国制覇への意気込みをまた、新たにした。【長田舞子】
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