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力投する聖光学院先発の歳内
=池田良撮影 |
(12日、金沢4―2聖光学院) 「福島の人に申し訳ない」。2回戦敗退が決まった試合後、歳内宏明は目を赤くして話した。
「被災県代表」。大阪入りしても、多くの報道陣に囲まれ、震災、原発事故の影響を聞かれた。その度に、「いつも通り自分たちの野球をやるだけです」と本人は答えていた。震災を言い訳にしたくない。それが彼の偽らざる本心だったと思う。この日も平常心で投げ続けた。
試合前、帽子に書いてある「仁王」という字を見せてくれた。「エラーがあっても自分の投球をする」と話した。6回。味方野手の失策が続いた。だが、「必ず取り返してくれる」と信じて最後まで投げ抜いた。
昨夏、甲子園の準々決勝で優勝した興南(沖縄)に敗れてから、ずっと日本一を目指してきた。トレーニングで体重を10キロ増やし、主将にも選ばれた。控え投手でもある芳賀智哉は「歳内は日本一の考え方を強く持っていた。自分たちにとって一番しっくりきた」。
だが、投球に専念するため、地方大会前に主将は小沢宏明に交代した。福島大会で5連覇しても喜ぶ姿はなく、「次の戦いがある。はしゃぐ場面ではない」と、あくまでも全国での戦いを見据えていた。
「震災を背負って重いと思ったことはない。でも特別な年だった」。9回、最後の打席も左前安打を放ち、執念を見せた。
1回戦の日南学園戦(宮崎)に勝ち、学校通算10勝を挙げた聖光学院。頂点を目指した8回目の甲子園は、残念ながら1勝止まりで幕を閉じた。だが、大会前に優勝候補にもあげられた力は本物だったと思う。
「甲子園は本当に力があるチームばかり。いろんな試練がある」。2試合で19回、280球を投げ、被安打16。得意のスプリットを武器に30三振を奪った18歳の夏は、悔し涙に包まれて終わった。(福宮智代)
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