大船渡 涙と感謝
津波の被害受けた沿岸部“最後の一校”大船渡が敗退
未曽有の苦難を乗り越えて挑んだ夏が終わった。第93回全国高校野球選手権大会(8月6日から15日間、甲子園)の地方大会は21日、39大会で234試合が行われ、岩手大会の準々決勝では、大船渡が2―6で優勝候補の花巻東に敗れた。同校の敗退により、東日本大震災による津波で壊滅的な被害を受けた沿岸部の高校は全て敗れ去った。22日は34大会で183試合が行われる。
甲子園に出場することで、震災で傷ついた街を活気づけたい。そんな一心で戦った特別な夏が終わった。それでも、ナインの表情には充実感がにじんだ。
「応援してくれた人たちを、少しは元気にできたかなと思う。多くの支援を受けてこの大会に出場できた。野球をやらせてもらって感謝している。“大船渡の野球を見てくれてありがとう”と言いたい」
氏家主将は涙ながらに胸を張った。東日本大震災による津波で10人以上の部員の家が流され、2人が親を亡くした。大切にしていた野球道具も流され、悲しみのどん底にいたナインを救ったのが、全国各地からの支援だった。5月に練習試合を行った鵡川(北海道)の部員からはスパイクなどの野球道具とともに「震災に負けるな」と激励のメッセージを送られた。この日は、横浜(神奈川)から差し入れられたバットで戦った。9回に1点を返すなど、シード校の花巻東相手に最後まで粘った。氏家主将も「これからの大船渡にとって大事な1点」と話した。
同校は84年センバツに初出場し、ベスト4。その勢いは「大船渡旋風」と呼ばれた。当時主将を務めていたのが、現在チームを率いる吉田亨監督。被災しながら一回り大きくなったナインを見つめ、「最後までたくましく戦ってくれた選手に感謝したい。野球があったから生活にも筋が一本通った」と称えた。
津波で甚大な被害を受けた岩手県沿岸部の高校は全て敗れた。だが、氏家主将には夢の続きがある。「将来は教師になって、地元の次の世代に今回の経験を伝えたい。野球も教えてみたい」。大船渡ナインはこの夏を生涯忘れることはない。
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